シェアサロンは流行り廃りで消えていく
いま、美容業界では「シェアサロン」や「レンタルスペース」という言葉をよく目にするようになりました。ネイルサロンやアイラッシュ、フェイシャルエステ、セラピストや美容師など、さまざまな職種の人たちが、初期費用なし・自由度が高いといったメリットを求めて集まっている印象があります。
でも、実際に現場で働くネイリストとして見ていると、このブームがずっと続くとは思えないのです。流行には必ず終わりがあり、シェアサロンも例外ではありません。特に、福岡のような美容競争が激しい都市では、その現実がはっきりと見えてきます。
私自身もこれまで、いくつかのシェアサロンやレンタルスペースで仕事をしたことがあります。もちろん、最初は設備完備・個室・セット面付き・空調や照明も整っているということで、魅力を感じました。だけど、時間が経つにつれて見えてきたのは「思ったほど甘くない」という現実でした。あまりにも自由を言い過ぎた面があります。続けられない人が多いのには、ちゃんと理由があります。
責任をもちたくない人が集まりやすい構造
シェアサロンに集まってくる人たちは、一見すると自由な働き方を選んでいるように見えます。自分のペースで働けて、人間関係のストレスも少ない。そんなふうに思われがちです。でも実際には、「責任を取りたくない人」が集まりやすい構造になっていると感じます。
例えば、ネイリストとして働くうえで、集客や売上管理、衛生管理、確定申告といった基本的な業務はすべて自分でやらなければなりません。でも、それを本当に理解して飛び込んでくる人は意外と少ないんです。
「商材も自分で持ち込めばいい」「スペースがあるならとりあえずやってみよう」そんな軽い気持ちで始めた結果、現実の厳しさに直面してしまう人を何人も見てきました。
中には、最初からうまくいかないことを前提にしているような人もいます。「ダメだったら辞めればいい」「他にも仕事あるし」という感覚で始めてしまうと、当然ながら続きません。責任を背負う覚悟がないまま、場だけ借りているような状態では、お客様の信頼を得るのも難しいのです。
そして、シェアサロンを提供する側もまた、場所だけを貸してリベートを取るスタイルが多く、働く側がどうなろうとあまり関与しないことが多いように感じます。その関係性が、どこか無責任な空気を生み出してしまっているのかもしれません。
長く続けられない理由
シェアサロンで働くうえで、もっとも大きなハードルのひとつが「孤独」と「不安定さ」です。設備完備や個室空間など、物理的な条件が整っていても、それだけで安心できるわけではありません。
まず、基本的に他人同士の集まりなので、空気を読む場面が多くなります。ネイルブースが隣接していても、会話の声が気になるとか、共用スペースの使い方でちょっとした摩擦が起きるなど、地味なストレスが積み重なります。店舗型とはいえ、運営方針やマナーの基準が曖昧な場合、心が休まる時間が少なくなってしまうんです。
そして、精神的に不安定になる最大の要因は「見えないプレッシャー」です。フリーランスのネイリストやアイリストとしてやっていく以上、結果はすべて自分の責任。お客様が少ない日が続くと、「このまま続けていけるのかな」と心配になり、逆に予約が埋まると今度は「この状態を保てるのか」と不安になる。自由の裏に、終わりのないプレッシャーが常に存在します。
私の知人にも、福岡市内でシェアサロンを利用し始めたアイラッシュ施術者がいました。初月は友人知人の紹介である程度の予約が入り、幸先のいいスタートに見えましたが、2ヶ月目からパタリと動きが止まり、3ヶ月目には精神的に追い詰められて辞めてしまいました。
誰にも相談できず、同じ空間にいながらも助け合える関係が築けない。この精神的な孤立こそが、シェアサロンが長く続かない最大の理由なのではと感じています。
確定申告の煩雑さと、現実的な壁
ネイルサロンやアイラッシュ、フェイシャルなど、美容の仕事に就く人の多くは、施術が好きでこの世界に入ってきたはずです。ですが、シェアサロンで独立するとなると、避けて通れないのが「確定申告」という現実です。
特に、美容師やネイリスト、セラピストといった技術職の人にとって、数字や税務は苦手な分野という方も多いのではないでしょうか。初めての確定申告は、「何から手をつけていいのか分からない」「領収書の整理だけで気が遠くなる」と戸惑う声がほとんどです。
実際に、福岡で開業した若手のネイリストの中には、帳簿のつけ方がわからずに税務署から問い合わせがきて初めてミスに気づいたという人もいました。開業届を出せば終わりではなく、経費の計上や収支の記録、提出書類の整理までを自分でやらなければなりません。
また、シェアサロンでは設備は揃っていても、税務面のサポートまではしてくれないケースがほとんどです。店舗側が個人事業主としての契約を前提にしているため、責任はすべて本人に委ねられます。フリーランスの自由と引き換えに、事務作業の負担が重くのしかかってくるのです。
毎年の申告だけでなく、売上が上がれば消費税の課税対象になり、さらなる事務負担が発生します。この税務面の煩雑さに疲れてしまい、施術への情熱を失って辞めていく人が少なくありません。
なぜシェアサロン側は責任を取らないのか
最近では、福岡市内でも「初期費用なし」「自由に使える」「商材持ち込みOK」などを売りにしたシェアサロンやスペースレンタルが増えてきました。ネイルブースやセット面が整っていて、空調や照明、共有スペースなども完備されているところが多く、一見とても便利に見えます。
でも、実際に働いてみると気づくのは「運営側の責任がほとんど無い」ということです。表向きは場所を提供するだけという立場なので、利用者の集客や売上、運営トラブルについては関与しないことが基本。設備使用料を毎月得ることで、リスクなく安定収入を得ている構造になっています。
たとえば、ある美容師がシェアサロンに移ったのですが、集客がうまくいかず数ヶ月で退去しました。その後、すぐ別の人が同じスペースを利用し始めていました。誰が入っても構わない、責任も関係もないというサイクルの中では、一人ひとりの働き手の人生に対して思いや責任を持つ人がいません。
これは、ネイリストやアイリストなどの個人が自分だけで何とかするという前提の上に成り立っています。成功する人はほんのひと握りで、多くは「何となく始めて、うまくいかずに辞めていく」という流れに巻き込まれてしまいます。
しかも、運営側は「うちは何も強制していないから」と言えばそれで終わり。あとは使う人の自由に任せる、というスタンス。自由という言葉の裏には、責任を放棄した構造が隠れているのです。
あまりにも良いことばかりを歌い過ぎてダメな人の集まりになってる面もあるのではないでしょうか?
人間関係の気疲れが積もる他人同士の集まり
シェアサロンやスペースレンタルは、「人間関係に縛られずに働ける」というイメージを持たれがちです。実際、固定メンバーのいない職場であれば、煩わしい上下関係や派閥から解放されるような気がします。
でも、働いてみると分かるのは、逆に気を遣う場面が増えるということです。たとえば、共有の冷蔵庫や洗面スペースの使い方、掃除当番や備品の位置など、小さなことでも周りの空気を読みながら動かなければいけません。
それぞれが個人事業主という立場で集まっている分、「誰が仕切るわけでもない」「注意する人がいない」からこそ、場の空気に敏感な人ほどストレスを抱えやすくなります。掃除が雑な人がいても、直接は言いづらい。音が気になる人がいても、お互い様と言われてしまう。そういった微妙な距離感の中で働くのは、案外、精神的に消耗します。
以前、私が使っていた福岡市内のシェア型ネイルサロンでは、たまたま隣に入っていた方が大音量で音楽を流すタイプの方で、毎回その音に気を遣いながら施術していました。注意すれば角が立つ、でも黙っていると自分が我慢する。このバランスがずっと崩れたまま続いていくのは、本当にしんどかったです。
仲間でもなく、上司でもなく、ただ「同じ空間を使っている人たち」という関係性は、良くも悪くも責任のないもの。だからこそ、心のどこかに「誰にも頼れない」という孤立感を抱えてしまうのです。
よほどのお客様がいないと続かない
ネイルサロンでもアイラッシュでも、独立して自由に働くには固定のお客様の存在が欠かせません。福岡のように美容室やエステ、ネイルサロンが密集している地域では、特にその重要性が際立ちます。
シェアサロンでは、通りがかりのお客様がふらっと来てくれることはほとんどありません。大半は自分で集客しなければならず、安定した収入を得るには、すでに「どこへ行ってもついてきてくれるお客様」が必要になります。SNSで集客したり、紹介を頼ったりと努力はできますが、それでも信頼関係を築くには時間がかかります。
実際、以前同じサロンを使っていたマツエク施術者は、技術も接客も申し分ない方でした。それでも、お客様が固定化する前に不安になってしまい、わずか3ヶ月で撤退してしまったのを覚えています。何よりつらかったのは、「空いている時間が怖くなる」という感覚だと話していました。
高単価で施術時間も長めの仕事であれば、一人あたりの売上は上がりますが、その分リピートがなければ一気に経営は苦しくなります。長時間営業できる環境があっても、お客様が来なければ意味がありません。
さらに、シェアサロンでは新規客の獲得ルートが限られているため、集客はすべて自己責任。ネイルだけでなく、美容師やセラピストでも同じで、開業したはいいものの「思ったより集客できなかった」と言って辞めていく人を、何人も見てきました。
自由に働ける、という言葉の裏には、「自分で集客できなければ続けられない」という厳しい現実があるのです。
流行には必ず廃りがある
シェアサロンという働き方が話題になりはじめたのは、ここ数年のことです。ネイルやアイラッシュ、美容室やエステ業界でも、「低コストで独立できる」「自由度が高い」「初期費用なしで開業できる」といった魅力的な言葉が並び、多くの人が夢を持って飛び込んできました。
けれど、どんなに魅力的に見えるスタイルでも、それが流行である以上、いつかはピークを迎えます。実際、福岡市内のシェアサロンでも、オープン当初は話題になっていたものの、今は空室が目立つところも増えてきました。SNSで発信が止まったり、予約サイトから姿を消していたり。そんな静かな消滅を私は何度も見てきました。
流行の働き方というのは、勢いがあるときは集客もしやすく、周りからの評価も得やすいものです。でも、その流行が落ち着いたときに残るのは、設備だけです。商材も技術も、結局は誰がその空間にいるかで価値が決まります。
「人間関係のストレスなし」「自由に働ける」「責任が軽い」などのフレーズは、一見すると理想的ですが、裏返せば「誰にも守られない」「孤独になりやすい」「成長のきっかけが少ない」という側面も持ち合わせています。
そして何より、美容師やネイリストという職種は、技術職でありながら感情労働でもあります。流行に乗るよりも、自分自身がどれだけ信頼され、選ばれ続けるかがすべてです。だからこそ、流行だけを追いかける働き方は、どうしても長続きしません。

なぜ美容師が続かない場所でネイリストが続くはずがないのか
これまで福岡で数多くのシェアサロンを見てきましたが、そこでまず最初に辞めていくのは、美容師の方が多い印象です。美容室は来客数も多く、比較的リピートが取りやすい職種のはずなのに、それでも長く続けられない人が多いのです。
その理由ははっきりしていて、集客の難しさや単価設定の不安定さ、設備トラブルや人間関係によるストレスなど、想像以上に負荷が大きいからです。実際、セット面が複数あっても「空いている椅子の方が多い」と感じる店舗は少なくありません。
そうした場所で、果たしてネイリストが続けられるでしょうか。ネイルやマツエクは、1日に施術できる人数が限られていて、リピートのペースも比較的ゆるやかです。予約が1件キャンセルされるだけで、その日の売上が大きく変わってしまう仕事です。
それに加えて、ネイリストは個室型での施術が多く、他のスタッフと関わる時間も少ないため、孤独になりやすい傾向があります。美容師のようにお客様の会話が次々に流れていくサイクルがあるわけでもなく、ひとりで黙々と、長時間同じお客様に向き合うスタイルが基本です。
その孤独感に耐えながら、なおかつ安定した収入を確保するには、よほどの技術力と信頼関係、そして経営感覚が必要になります。しかも、そんなネイリストたちがシェアサロンで孤立したまま何年も続けられるかといえば、正直かなり難しいのが現実です。
美容師ですら続かない場所。そんな環境で、ネイリストが安定して働けるという保証はどこにもありません。
参考記事:福岡で独立志向のあなたへ「シェアサロン」は本当に必要ですか?
それでも、ままごと経営者が集まってしまう理由
シェアサロンやレンタルスペースが流行りはじめると、それに便乗して新しく立ち上げる人もどんどん増えてきます。SNSでは、「独立応援」「自由な働き方」「低リスクで開業できる」といった言葉が並び、まるで誰でも簡単に経営者になれるような印象を与えます。良いことばかり、言い過ぎです。
でも、実際にはままごとのような経営が多いのが現実です。
たとえば、家具付き・照明完備・空調ありといったスペースを整えたはいいものの、その後の運営がうまくいかず、告知もままならないまま放置されているような場所。契約内容が曖昧だったり、トラブル対応の窓口がなかったり、責任の所在が不明確なまま人を入れてしまっているところもあります。
誰かに任せておけば、自分はリベートだけ入ればいい。そういう運営者を何人も見てきました。一見立派に見えるシェアサロンの多くが、実は中身が薄く、「人に使わせて儲ける」ことだけを目的にしているケースも少なくありません。
働く側も、その甘い誘いに乗ってしまいやすいのです。「自由に働けるって聞いたから」「家賃が安いから始めてみようと思って」そんな言葉で入ってくる若いネイリストやアイリストもたくさんいます。でも、働きながら「こんなはずじゃなかった」と気づくまでに、時間もお金も消耗してしまうのです。
ままごと経営の場に、本気で頑張りたい人が飛び込んでしまうと、どちらも不幸になります。育成もサポートもないまま、使い捨てのように回っていく空間では、人は育ちませんし、信頼も積み上がりません。

成長したいなら、自分で部屋を借りた方がいい理由
もしあなたが、ネイリストとしてもセラピストとしても、美容の仕事で本気で成長したいと考えているのならシェアサロンではなく、自分で小さな部屋を借りる選択肢を真剣に考えてほしいと思います。
たしかに、最初は不安かもしれません。契約の手続き、設備投資、家賃の支払い、集客。すべてが自分の責任になります。でも、それを一つひとつ乗り越える過程こそが、あなたを強くしてくれるのです。
私もかつて、シェアサロンで働いていた時期があります。そこでは便利さと引き換えに、主体性を失っていきました。掃除ひとつ、備品の管理ひとつ、自分の意思で決められないことが多かったんです。何となく周りに合わせて過ごし、自分のサロンという意識が薄れていきました。
でも、思いきってワンルームを借り、ネイルブースを整え、照明や空調も自分で選び、全部を自分の手で整えたときの気持ちは今でも忘れられません。「これは私の場所なんだ」と感じた瞬間、責任感と同時に、やりがいと誇りが芽生えました。
集客も、経営も、もちろん簡単ではありません。でも、自分の空間でお客様を迎え、予約が埋まっていく喜びは、シェアサロンのときには感じられなかった感動でした。お客様の信頼がそのまま自分の成長に繋がっていく実感が持てるのです。
設備完備や家具付きといった表面的な条件だけでなく、「その空間をどう育てていくか」を考えたとき、本当に力がつくのは自分の責任で動ける場所です。低コストや自由度だけに惹かれて足を踏み入れるより、自分の成長を見据えて自分の場所を持つことが、何よりの財産になるはずです。
それでもシェアサロンがうまく聞こえる理由と、その裏側にある現実
なぜ、こんなにも多くの人がシェアサロンに惹かれてしまうのでしょうか。それは、あまりにも都合のいい言葉だけが一人歩きしているからだと思います。
自由に働ける。初期費用がいらない。人間関係のストレスがない。好きな時間だけ働ける。そういった言葉はたしかに魅力的です。けれど、それが本当に成立するのは、ごく一部のすでに成功している人だけ。
現実には、確定申告すらできない、経費の感覚がない、お客様への対応が曖昧、空いた時間にただ待っているだけ。そんな自立しきれていない人たちが集まってしまいがちな場所にもなっているのです。
私が実際に訪れたことのあるシェアサロンでは、照明やコンセント、空調など設備は整っているのに、空気はどこか停滞していて、共有スペースも活気がなかったのを覚えています。ネイリストやセラピストが何人もいるのに、お互いに関心がなく、会話すらない。まるで、それぞれがここでうまくいかない理由を探しているように見えました。
「自由」を選んだはずなのに、なぜかみんな、どこか自信なさげで、言い訳が先に立ってしまう。そんな雰囲気の場所では、結果を出す人よりも、フェードアウトする人のほうが多くなってしまうのです。
良いことばかりを並べて、気軽に始められるという印象だけを与えてしまうからこそ、成長したい人にとっては危うい場所になってしまう。厳しい現実や自己管理の難しさを知っていればこそ、見えてくる落とし穴があります。

